九

　　　葛城万葉旅行

　
　　　巨勢山

川上の　つらつら椿　つらつらに　見れども飽かず　巨勢の春野は（１・５６春日老）

巨勢山の　つらつら椿　つらつらに　見つつ偲はな　巨勢の春野を（１５・４坂門人足）

　　　　宇智の大野

たまきはる　宇智の大野に　馬並めて　朝ふますらむ　その草深の　（１・４中皇命）

　
　　　丹比真人笠麻呂下筑紫国時作歌１首

たわやめの　匣(くしげ)に乗れる　鏡なす　御津の浜辺に　さにつらふ　紐解きさけず　吾妹子に　恋ひつつ居れば　明け闇(ぐれ)の　
朝霧隠り　鳴く鶴(たず)の　哭(ね)のみし泣かゆ　わが恋ふる　千重の一重も　慰もる　情(こころ)もありやと
　家のあたり　わが立ち見れば　青旗の葛木山に　たな引ける　白雲隠る　天ざかる　ひなの国べに　直向ふ　淡路をすぎ　栗島を　背(そがひ)に見つつ　
朝なぎに　水手(かこ)の声呼び　夕なぎに　梶の音しつつ　波の上を　い行きさぐくみ　岩の間を　い行きもとほり　稲日都麻　浦みをすぎて　鳥じもの　
さづさひ行けば　家の島　荒磯の上に　うちなびき　繁(しじ)に生ひたる　なのりそが　などかも妹に　告(の)らず来にけむ

（４・５０９）

明日香川　もみち葉流る　葛城の　山の木の葉は　今し散るらむ　（１０・２２１０）

　
　　　高天

葛城の　高間の草野(かやの)　早知りて　標(しめ)指さましを　今そ悔しき　　　（７・１３３７）