十一

 

 
 
吉野宮滝万葉旅行

 

音に聞き 目にはいまだ見ぬ 吉野川 六田(むつだ)の淀を 今日見つるかも  (7・1105)

今しきは 見めやと()ひし 吉野の 大川淀を 今日見つるこも   (7・1103)

河蝦(かわづ)鳴く 六田の河の 川楊(かわやぎ)の にもころれど 飽かぬ河かも    (9・1723)

 

み吉野の 吉野の鮎 鮎こそは 島べも()き しゑ 水葱(なぎ)の下 芹の下 吾は苦しゑ(紀)

 

 
 天皇御製歌


み吉野の 耳我の嶺に 時なく 雪は降りける 間なく 雨は
()ける その雪の 時なきが(ごと) その雨の 間なきが如 隈もおちず 思ひつつぞ来し その山道を

(1・25)

 
 天皇吉野宮に幸せ時 御製歌


よき人の よしとよく見て よしと言ひし 芳野よく見よ よき人よく見 (1・27) 

 

大和には 鳴きてか来らむ 呼子鳥(よぶこどり) (きさ)の中山 呼びなる (1・70黒人)

昔見し (きさ)の小川を 今見れば いよよさやけく なりにけるかも(3316 旅人)

わが命も 常にあらぬか 昔見し 象の小河を 行きて見ため (3322 旅人)

 

やすみしし 吾大王 神ながら 神さびせすと 芳野川 たぎつ河内に 高殿を 高しりまして 登り立ち 国見をすれば (たたな)はる 青垣山 山祗(やまつみ)の (まつ)御調(みつぎ)と 春べは 花かざし持ち 秋立てば 黄葉(もみぢ)せり 逝き副 川の神も 大御食に 仕へ奉ると 上瀬に 鵜川を立ち 下瀬に 小網(さで)さし渡す 山川も 依りて仕ふる 神の御代かも 

  反歌

山川も よりて仕ふる 神ながら たぎつ河内に 船出せすかも (1・38,39 人麻呂)

 

山の() 出雲の児等は 霧なれや 吉野の山の 嶺に棚引く (3・409 人麻呂)

八雲さす 出雲の児等が 黒髪は 吉野の川の (おき)なづさふ (3・430 人麻呂)

やすみしし 吾大王の 聞し召す 天の下も 国はしも (さわ)にあれども 山川の 清き河内と 御心を 吉野の国の 花散ら 
秋津の野辺に 宮柱 太敷きませば 百敷城の 大宮人は 
船並(ふねな)めて 朝川渡り 舟競(ふなぎは) 夕川渡る 
この川の 絶ゆることなく この山の いや高からず 
水激(みずはし)る 滝の宮処(みやこ)は 見れども飽かぬか 


 反歌

見れども飽かぬ 吉野の河の 常滑の 絶ゆることなく また還る見 (1・36  37  人麻呂)

 

滝の上の 三船の山に ゐる雲の 常にはあらむと わが思はなくに (3・242 弓削皇子)

吾が行は 久にはあら 夢の和田 瀬にはならず 淵にあらなく (3・335 旅人)

山高み 白木綿花に 落ちたぎつ 滝の河内は 見れど飽かぬか (6.909 笠金村)

斧取り 丹生の檜山の 木()り来て 筏に作り 二楫貫(まかぢぬ)き ()()みつつ 
島伝
 見れども飽がず 吉野の 滝もとどろに 落つる白浪


  反歌

み吉野の 磯もとどろに 落つる白浪

留りにし 妹に見せまく 欲しき白浪    (13・3232  3233)