背景はダ・ヴィンチのモナリザです。 やはり、大塚美術館の陶版画です。 |
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![]() キリストの右は聖トマス、聖大ヤコブ、聖フィリポ |
![]() 右から「聖ヨハネ=マグダラのマリア?」、聖ペトロ、ユダ |
![]() 修復以前の状態?2005年大塚美術館にて撮影 |
『ダ・ビンチ・コード』著者 ダン・ブラウン (越前 敏弥 訳) ・・・・ 「真理を学ぶことはわたしの人生そのものだ。そしてサングリアルはわが最愛の女ひとなのだよ」 聖杯とはある女性なのか。ソフィーの頭のなかでさまざまな想像が絡み合い、意味不明のコラージュを作りあげていた。「あなたの説によると、聖杯を表す女性の絵がここにあるんでしょう?」 「たしかにあるが、聖杯がその女性だと主張しているのはわたしではない。イエス・キリスト本人だよ」 「どの絵なのかしら」ソフィーは壁に目を走らせながら訊(き)いた。 「ふむ・・・」ティービングは忘れたかのように装った。「聖杯、サングリアル。杯」突然向きを変え、反対側の壁を指さした。そこに掛かっていたのは、差し渡し8フィートはある。<最後の晩餐>の複製写真だった。ソフィーが先刻見ていたものと同じ絵柄だ。「あそこだ!」 何かのまちがいだろうとソフィーは思った。「それはさっき見せてもらったのと同じ絵だけど」 ティービングはウインクをした。「そのとおり。しかし大きいほうがはるかに刺激的だ。そう思わないかね。」 ソフィーは助けをもとめてラングドンに顔を向けた。「わけがわからないわ」 ラングドンは微笑んだ。「<最後の晩餐>のなかには、たしかに聖杯がその姿を現している。レオナルドはそこにはっきり描いたんだ。」 「待ってよ」ソフィーは言った。「聖杯は女性なんでしょう?」<最後の晩餐>に描かれているのは、13人の男性よ」 「ほんとうかね?」ティービングは眉をあげた。「よく見るといい」 ソフィーは半信半疑で絵に歩み寄り、13人の姿をながめた。中央にイエス・キリスト、その左側に6人の弟子、右側にも6人の弟子。「みんな男よ」ソフィーは断言した。 「おやおや。主の右の誉れある席に座している人物はどうかね」 ソフィーは、イエスから見てすぐ右側の人物に目を凝らした。顔立ちや体つきを観察するにつれ、驚愕がこみあげてきた。赤い髪がゆるやかに垂れ、組んだ指は華奢で、胸がかすかにふくらんでいる。この人物は疑いもなく・・・・女性だ。 「この人、女よ!」ソフィーは叫んだ。 ティービングは笑った。「驚いたかね。もちろん、作者がしくじったわけではない。レオナルドは男女の描き分けに長けていた」 ソフィーはキリストの横の女性から眼を離せなかった。<最後の晩餐>は13人の男の絵のはずだ。この女性はだれだろう。何度も目にした名画なのに、この異常きわまりない特徴には一度も気づかなかった。 「誰もが見過ごすことだ」ティーピングは言った。「この場面についてわれわれは強烈な先入観を持っているから、脳が矛盾を見て見ぬふりをして、あるがままを受け入れようとしない」 「盲点だな」ラングドンが言い添えた。「強い思いこみが存在するとき、能がこの反応をするときがある」 「ここに女性がいるのを見逃す理由がもうひとつあげられる」ティーピングは言った。「美術書に載っているこの絵の写真の多くは1954年以前に撮られたもので、そのころはまだ、汚れの層や、18世紀に数度施されたつたない修復の元に、細部が隠れていた。最近になってよけいなものが落とされ、ダ・ヴィンチみずからの手によるフレスコ画が現れた」ティーピングは手で写真を示した。 「あれだ!」 ソフィーはさらに絵に近づいた。イエスの横の女性は若々しく、美しい赤髪を持ち、物静かな顔に信心深い表情を浮かべ、手を軽く組んでいる。これが、一人で教会の基盤を揺るがしかねない女性だって? 「この人はだれなの?」ソフィーは尋ねた。 「この女性は」ティーピングは答えた。「マグダラのマリアだ」 ソフィーは振り返った。「あの娼婦の?」 そのことばで自分が傷つけられたかのように、ティーピングは短くため息をついた。「マグダラのマリアは娼婦などではない。不幸な誤解は、初期の教会による組織的中傷の名残りだ。教会がマグダラのマリアを貶めたのは、その危険な秘密を ― 聖杯としての役割を― 闇に葬るためだ」 「役割?」 「さっきも言ったとおり」ティーピングは説明した。「かっての教会は、人間の預言者であるイエスが神だと世間を納得させなくてはならなかった。それゆえ、イエスの生涯の世俗的な面を記した福音書を、すべて聖書から除外した。しかし昔の編集者にとっては不都合なことに、とりわけ扱いにくいひとつの話題が数々の福音書に繰り返し現れていた。それがマグダラのマリアだ」ティーピングは間をとった。「より具体的に言えば、イエス・キリストとマグダラのマリアとの結婚だ」 「なんですって?」ソフィーはラングドンに目をやり、それからティーピングへもどした。 「史実として記録されている」ティーピングは言った。「そしてダ・ヴィンチは間違いなくその事実を知っていた。<最後の晩餐>は見る者に対し、イエスとマグダラのマリアが夫婦だったと叫んでいるも同然だ」 ソフィーは絵をふたたび見た。 「イエスとマグダラのマリアが対照的な服装をしているのがわかるかね」ティーピングは中央のふたりを指さした。 ソフィーは息を呑んだ。たしかに、ふたりの服の色は正反対だ。イエスは赤い長衣に青いマントをまとっている。マグダラのマリアは青い長衣に赤いマントだ。陰と陽というわけか。 「不思議な点もある。イエスとその妻は、腰のあたりで接しているらしいにもかかわらず、上半身を遠ざけ合っている。あたかもふたりのあいだに、無意味な空間を切り取りたいかのように」 ティーピングが輪郭をなぞってみせるまでもなく、ソフィーは悟った。まぎれもない V の形が絵の中心にある。ラングドンがさっき書いた、聖杯や女性の子宮を表す記号そのものだ。・・・・・ |
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